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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)2163号 中間判決

《住所省略》

原告 小出耀星

右訴訟代理人弁護士 濱秀和

同 大塚尚宏

《住所省略》

被告 陳邦畿

右訴訟代理人弁護士 水上喜景

同 遠山泰夫

主文

日本国裁判所は本件訴えにつき裁判権を有する。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、二億八四五七万二二九円及びこれに対する昭和六一年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(本案前の申立)

1 本件訴えを却下する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、昭和四三年五月一八日、別紙物件目録記載の土地建物(以下「本件土地建物」という。)の所有者であった中華民国国籍の亡陳維珠の父陳昆山の養子となったが、昆山が同月二五日に死亡したため、本件土地建物の所有権を相続により取得した。ところが、そのころ右維珠と生前同居し同人の妻であると主張する訴外鈴木登代子(以下「訴外鈴木」という。)が、本件土地建物についての所有権を主張してこれを占有したうえ、翌昭和四四年ころ右土地上に新たにアパート(以下「本件不法建物」という。)を建築して他に賃貸するようになった。

2  原告は、東京弁護士会所属の弁護士であるところ、昭和四四年八月ころ台湾に渡航中、訴外陳文資に被告を紹介され、同訴外人の口添えのもとに、被告から本件土地建物が訴外鈴木らに不法に占有されているので解決してもらいたい旨の依頼を受け、同月二三日右陳文資宅において、被告との間に、本件土地建物の明渡及び本件不法建物を収去することを内容とする左記の約定の委任契約(以下「本件委任契約」という。)を締結した。

(1) 着手金は無し。

(2) 印紙代、予納金、旅費、日当その他の費用は原告において立て替え勝訴又は和解後に支払う。

(3) 成功報酬は成功と同時に本件土地建物の時価又は権利の六割を支払う(但し、右の選択は債権者たる原告に選択権がある。)。

3(一)  原告は、本件委任契約に基づき、被告の代理人として昭和四四年一二月一九日訴外鈴木らに対し建物収去土地明渡請求事件を提起して訴訟を追行し、同四八年四月二六日第一審で勝訴の判決を得、同五一年三月二九日第二審も勝訴し、同五二年七月一五日の上告棄却の判決により勝訴が確定した。

(二) 原告は、右の頃から昭和五三年にかけて、本件土地建物の明渡並びに本件不法建物収去のための強制執行を行いその目的を達した。また本件建物には前記亡陳維珠が訴外戸張章に対して設定した抵当権設定登記及び所有権移転請求権保全仮登記の各登記が訴外鈴木に移転されていたので、同訴外人から本件建物について所有権移転登記請求事件が提起されていたが、原告は昭和五三年八月同訴外人に対する勝訴的和解によりいつでも抹消できることになった。

(三) 以上の他に原告は、本件に関連する仮処分、仮差押、告訴事件、賃料相当損害金執行のための差押等を追行し、昭和四四年から事件の解決した同五三年まで別紙第一事件目録記載のとおり合計三五件という多数の訴訟、保全、執行等の事件を担当して、依頼者である被告の依頼する本件委任契約の目的を実現した。

(四) 右の間原告は、被告から費用を一切交付されないまま、印紙代、仮処分等の保証金、予納金等も立て替えてきたが、その額は約四三〇万円もの多額にのぼる(但し、右金額には「費用、日当、その他の費用」は含まれていない。)。

4  以上のように被告の依頼事件はその目的を達成して解決するに至ったところ、被告は昭和五四年六月二日ころから、原告の従来の労苦に全く応えることなく、本件委任契約の報酬も支払わないで済ませようとするかのような言動をなすようになった。

5(一)  そこで原告は被告に対し、土地建物持分移転登記等請求事件(東京地方裁判所昭和五四年(ワ)第七〇九七号)を提起した。

(二) 右訴訟は、原告が、右訴訟の訴状送達により被告に対し本件委任契約に基づく成功報酬として、本件土地建物の所有権の持分一〇〇分の六〇を選択する意思表示をなして右所有権持分を取得したことを理由として、被告に対し、右所有権持分の移転登記を請求するものであった。

(三) 右訴訟の第一審判決は原告が右訴訟提起前に本件土地建物の時価の一〇〇分の六〇に相当する金銭の給付を選択する旨の意思表示をしていたとして、原告の報酬請求権は本件委任契約時に遡って右金銭の支払請求権に特定していると判断し、訴訟物としての所有権持分移転登記請求権を否定した。

(四) そこで原告は、右第一審判決を不服として控訴した(東京高等裁判所昭和五九年(ネ)第二八六一号事件)ところ、控訴審判決は、訴外塩田俊男に対する被告の債務について原告が立替弁済すること及び右塩田の抵当権設定登記等の登記を抹消すること(以下「本件残存事務」という。)も本件委任契約の内容に含まれていたとし、したがって原告の受任事務が未了であるとの理由で控訴を棄却したので、原告は最高裁判所に対し上告した(昭和六一年(オ)第一二六三号事件)。

6(一)  右控訴審判決は、右のとおり第一審判決と異なり、原告の被告に対する本件委任事務が残存している点で未了であることを理由として、原告の報酬請求権は発生していないとした。

(二) そこで原告は昭和六一年一〇月一五日被告に対し、本件残存事務遂行のための委任状用紙を送付して右委任状を交付するよう通知したが、被告は何ら応答をすることなく、委任状も交付してこなかった。

(三) このように委任者である被告が、委任事務遂行に必要な委任状の交付をしないということは、成功報酬が定められている場合に委任者において委任事務の成功という条件を故意に妨げるものであるから、受任者である原告は委任事務が成功したものとみなして成功報酬を請求できることになる(民法一三〇条)。

7  請求債権額

(一) 立替金

(1) 原告は、本件委任契約に基づく委任事務の処理にあたり、昭和五四年七月三〇日当時までに別紙費用目録記載のとおり合計四二九万五七七四円を被告に代わって立替払いした。右の内二八四万九〇四五円の弁済充当があったので立替金の残額は一四四万六七二九円となる。

(2) 原告は、昭和五五年から同六一年一一月まで本件建物について火災保険料金合計一二万三五〇〇円を被告に代わって立替払いした。

(3) 以上により、立替金合計は一五七万〇二二九円である。

(二) 委任報酬金

(1) 本件委任契約によれば委任事務の完了と同時に本件土地建物の時価の六割を支払うことになっており、右時価の算定基準時は委任事務の完了時であるところ、本件では前記6で述べたとおり、被告が原告の委任事務の成功を妨害したため、原告が委任事務を完了させることが不可能となり、委任事務は成功したものとみなされるのであるから、この委任事務成功とみなされる時点である昭和六一年一〇月当時を基準時とするのが相当である。

(2) 昭和六一年一〇月当時本件土地の近隣の土地は、坪当たり四四九万円で取引されているので、本件土地の時価も右金額と同額以上と考えられている。本件土地の面積は一〇四坪であるから、時価は四億六六九六万円となり、その六割は約二億八〇〇〇万円となる。

(3) 本件建物の右当時の時価は五〇〇万円であり、この六割は三〇〇万円である。

(4) 以上から、本件土地建物の時価の六割は二億八三〇〇万円である。

8  よって、原告は被告に対し、本件委任契約に基づき報酬金二億八三〇〇万円及び立替金一五七万〇二二九円の合計二億八四五七万〇二二九円及びこれに対する委任契約終了の日の翌日である昭和六一年一一月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告の本案前の主張

本件訴えは日本の裁判所に裁判権がないから、不適法として却下されるべきである。

1  民事訴訟法の裁判籍に関する各規定は、あくまでも日本国に裁判権があることを前提として、その事件を日本国内のどの裁判所で処理すべきかという規定であって、国際的な裁判管轄権を決定するために、ストレートに適用すべき規定ではない。国際的な裁判管轄権を決定するうえでこれらの規定が一つの参考になることは否定しえないが、右決定にあたっては、個別の事件のそれぞれの特質をよく見極めて、当事者間の公平及び裁判の適正・迅速の観点から総合的に判断すべきである。

2(一)  被告は、台湾に国籍を有する台湾在住の者であり、日本に在住したことはないうえに、原告・被告間の本件委任契約は台湾で締結されたものである。

(二) 本件委任契約の報酬支払義務の履行地が契約上日本国とされているのは事実であるが、単なる義務履行地は国際的裁判管轄権の基礎としては不適格である。

(三) 原告は台湾の出身であり、現在でもしばしば台湾に渡航しているうえ、台湾において弁護士に委任して訴訟を起こしたこともある。これに対し被告は、単に親族の中に日本に住んでいた者がいたというだけで、日本とはまったく縁もゆかりも無く、現に日本で弁護士に訴訟を委任しているわけではあるが、この弁護士は以前に裁判権につき争いの余地のない訴訟に応訴するためにやむを得ず選任したものであり、必ずしも本件をも必然的に委任するという関係にはなかったものである。

(3) 以上の事実によれば、本件について裁判権を有するのは台湾の裁判所であって、日本の裁判所ではない。被告には台湾において裁判を受ける権利があり、異国の地において応訴を強いられなければならない理由はない。

三  本案前の主張に対する原告の反論

1(一)  本件訴えは、原告と被告が昭和四四年八月二三日台湾において締結した本件委任契約に基づく報酬支払請求訴訟であるが、右契約の内容は、被告が相続により取得した日本国所在の土地建物の占有を回復することが主たるものであり、右契約の趣旨から考えると、原告の履行義務がわが国において生ずるものであることは明らかであるばかりでなく、当該契約の効力も日本法によるものとするのが、本件委任契約締結当時における原・被告間の意思と認めるのが相当である。

(二) 本件委任契約においては、成功報酬の額は、訴訟の目的となっている土地建物の時価に関係させられ、その時価の六割ないし権利の六割とされていて、報酬支払の履行場所も原告事務所となっている。これは原告が所有権の六割を選択したときは、原・被告が本件土地建物を共有物として売却してその持分割合に応じて代金を取得し、原告が本件土地建物の時価の六割の金銭を選択したときは被告が本件土地建物を売却したうえで、その代金の六割を支払うというものであると解するほかはないものであって、被告の義務はわが国において履行されることが当然に予定されているばかりでなく、それが契約上の明示の意思である。これは、単にわが国民法における持参債務の原則から演繹される義務履行地がわが国にあるとするものではなく、契約の履行それ自体がわが国においてでなければなしえないとするほどのものである。

2  国際裁判管轄については、これを規定した法規がないことから、当事者間の公平、裁判の適正、迅速を期するという理念により条理にしたがって決定するのが相当であるところ、わが国における民事訴訟法学上の通説は、日本国内に裁判籍の認められる事件は原則としてわが裁判権の処理事項であるとしている。

3  本件において、被告は確かにわが国において現在・過去とも住所を有したことはないし、居所も有しないが、本訴請求が財産権上の訴えであることは明らかであるところ、前記1で述べたところにより本件委任契約の義務履行地は我が国にあると認めるべきであるし(民訴法五条)、差押えをすることの可能な財産、それも、委任契約が処分を予定している請求額を上回る価格の財産が、わが国にある(民訴法八条)のであるから、本訴について、わが国の裁判所が裁判権を有することは明らかというべきである。

第三証拠関係《省略》

理由

一  本件訴えは、日本在住の日本人弁護士原告と台湾に住所を有する台湾人被告とが台湾において、日本に所在する被告所有にかかる本件土地建物につき不法占有者を排除して右土地建物の明渡を求める訴訟その他の事務を原告において追行し、右事務の成功を条件として、成功報酬として被告から原告に対し、本件土地建物の所有権持分一〇〇分の六〇(以下「本件所有権持分」という。)又は右土地建物の所有権持分一〇〇分の六〇の時価相当額(以下「本件所有権持分時価」という。)を支払う旨約定したところ、原告が右委任事務の遂行中に、委任者被告が委任事務の成功を妨害したことにより右委任事務を完了させることが不可能となったとして、みなし成功報酬として、原告から被告に対して、右契約による日本国内に存する被告所有の本件土地建物の所有権持分の一〇〇分の六〇の時価相当の金員の支払を請求する(以下右請求を「本件主請求」という。)とともに委任事務費用立替金の支払を請求する(以下右請求を「本件併合請求」という。)ものである。

そして、被告は、本案前の主張として右のような本件訴えにつきわが国の裁判所は裁判権を有しないと主張するので、以下この点について判断する。

二  本件被告が台湾に国籍を有する者であり、わが国において現在・過去ともに住所を有したこともなく、居所も有しないことは弁論の全趣旨より明らかであるところ、このような者を被告とする民事訴訟についての国際裁判管轄の決定にあっては、この点に関する国際裁判管轄を直接規定する法規もなく、また、よるべき条約も一般に承認された明確な国際法上の原則もいまだ確立していない現状のもとにおいては、当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念により条理にしたがって決定するのが相当であり、わが民訴法の国内の土地管轄に関する規定、たとえば、被告の居所(民訴法二条)、法人その他の団体の事務所又は営業所(同四条)、義務履行地(同五条)、被告の財産所在地(同八条)、不法行為地(同一五条)、その他民訴法の規定する裁判籍のいずれかがわが国内にあるときは、これらに関する訴訟事件につき、被告をわが国の裁判権に服させるのが右条理に適うものというべきである(最高裁昭和五五年(オ)第一三〇号同五六年一〇月一六日第二小法廷判決・民集三五巻七号一二二四頁)。

三  そこで、まず本件主請求について判断する。

《証拠省略》によれば、以下の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

1  被告はわが国に住所も居所も有しない台湾人であり、本件委任契約は台湾で締結されたものではあるが、その内容とするところは、被告所有のわが国所在の本件土地建物について訴外鈴木の占有を排し、同訴外人が不法に建築した本件不法建物を収去して被告の占有に移すことについてのわが国の裁判所における訴訟ないしは訴訟外での解決をはかることをその事務の趣旨とした委任であるところ、右本件契約締結当時、被告は台湾に何ら資産を有しておらず、それゆえ、本件委任契約に基づく報酬については、原告との間で本件所有権持分又は本件所有権持分時価で支払うこととし、また、委任事務履行に必要な費用については原告が立替えることとした。

2  本件で争点になっている委任契約に基づく原告の委任事務の遂行はすべて本件土地建物の所在するわが国で行なわれており、右委任契約に基づく成功報酬の約定は、前示のとおり本件所有権持分又は本件所有権持分時価が支払われるものとされているところ、原告が右委任契約上の委任事務の履行を了したとして、本件所有権持分の所有権移転登記請求権を被保全権利として、本件土地建物の所有権の一〇分の六につき処分禁止の仮処分をしたうえ、別訴(第一審東京地裁昭和五四年(ワ)第七〇九七号、第二審東京高裁昭和五九年(ネ)第二八六一号、上告審最高裁昭和六一年(オ)第一二六三号、以下「別訴」という。)により本件所有権持分の所有権移転登記請求訴訟を提起したところ、本件被告はこれに応訴し、第一審以来日本の弁護士を訴訟代理人に委任して訴訟遂行をなし、第一審では、原・被告間の委任契約に基づく報酬請求権は、本件土地建物所有権持分か金銭支払請求権か択一的なものであり、原告において既に金銭による支払を受領しているとの認定のもとに本件原告の請求が棄却され、第二審では、前記原・被告間の委任契約の成立を肯認しながらも、その報酬請求権は委任事務全体の処理が成功裡に完全履行されたことを条件として発生するものと約されているのに、本件原告の委任事務の一部である本件土地につきなされている訴外塩田信男を権利者とする抵当権設定登記等の登記の抹消登記手続が未了であるとの認定のもとに、本件原告の請求が棄却され(控訴棄却)、これに対し本件原告から上告し、同事件は現在最高裁に係属中である。

3  そこで、原告が、右別訴控訴審判決により未履行と判断された部分の委任事務の履行の続行を行なおうとして、それに必要な本件被告の委任状の交付を求めたところ、被告はこれを拒絶して交付しなかったので、原告は被告が原告のなすべき残委任事務の遂行をさせず、もってその成功を妨げたとして被告に対し、みなし成功報酬としての本件所有権持分時価の支払を請求するとともに、右委任事務遂行中に原告が立替えた委任事務費用の支払を請求してきたのが本件訴えであり、このため本件主請求における原告の請求額も、わが国に存する本件土地建物の価額を基準として算定されるものである。

4  従って本件主請求は、原告が、訴訟の目的たる財産が日本に存することによりわが国に裁判籍のある別訴による控訴審の判断に従い、日本に所在する本件土地建物についての事務処理の遂行に関して、右別訴控訴審判決の判断中で指摘された残存する委任事務の遂行によってその委任事務全体が成功裡に完了したあかつきにはじめて請求しうる成功報酬が、右被告の条件成就の妨害により、委任事務が成功したものとみなして請求しうることになったとして、本件所有権持分時価の支払を求めるものであるといえる。

5  そして本件訴えは、昭和六一年一二月二二日、本件原告が本件報酬請求権を被保全権利として本件土地建物につき仮差押決定を得たのに対し、本件被告(訴訟代理人は本件被告訴訟代理人弁護士)の申立により仮差押裁判所が昭和六二年二月六日起訴命令を発したことから右仮差押事件の本案訴訟として原告から提起されたものであり、また本訴状の送達は本件被告の委任状を所持した日本の弁護士で右仮差押事件の債務者の訴訟代理人でもある本件被告訴訟代理人が当裁判所に来て本訴状を受領することによりなされたものである(以上の事実中、本訴状の送達が被告の委任状を所持した被告訴訟代理人が当裁判所に来て本訴状を受領したことによりなされたことは、当裁判所に顕著である。)。

6  右によれば、本件土地建物は本件主請求の担保の目的となるべき財産であるといえるうえに、前示のとおり本件委任契約締結当初から被告には台湾には財産はなく、わが国に所在する本件土地建物が唯一の財産であって、本件土地建物は原告が差押えをすることが可能な唯一の財産ともいうべきものであるから本件委任契約締結当時の原・被告の意思としては、本件委任契約に基づく報酬の支払方法については、本件所有権持分の移転による場合にはわが国で履行することを明示的に合意していたと推認され、また本件所有権持分時価による金員の支払による場合にしても、前示被告の有する財産、資力に照らせば、わが国に所在する本件土地建物を売却処分して換金した金員の中から右持分に応じた金額を支払うことが当然前提とされているのであるから、その履行もわが国でなされることが黙示的に合意されていたものと推認されるのである。

したがって、本件主請求の履行地はわが国であるものと認められる。

7  ところで、被告は前示のとおりわが国に本件土地建物たる財産を有しており、また、原告と被告との間には、現在までに本件以外にも別紙第二事件目録記載のとおりの多数の訴訟が行なわれているところ、右いずれの訴訟にあっても前示三2及び5に述べたように被告はわが国の弁護士を訴訟代理人に選任して訴えを提起し、あるいは応訴しているのであり、しかも前示三5で述べたとおり、本訴提起の端緒となった起訴命令の申立をなした債務者訴訟代理人と同一の弁護士が当裁判所に来て本訴状を直接受領したことによりその送達がなされ、もって本件原・被告間の訴訟が当裁判所に係属されるに至っていることに照らせば、原告が本件訴えにつきわが国の弁護士に訴訟委任してその訴訟活動をすることは容易になしうるものであって、特に本件訴えに限ってわが国において弁護士に委任して訴訟活動ができない事情があることは認め難い。

以上全ての事実を総合して勘案すると、本件主請求について、わが民訴法五条、八条の規定する裁判籍が、わが国内にあるといいうるのであるから、これに依拠して、本件主請求につきわが国の裁判所に裁判権を認めることが、当事者の公平、裁判の適正、迅速を期するという理念に合致し、条理に適い相当であるものと解される。

四  右のように、本件訴えのうち本件主請求につきわが国に裁判権が認められる以上、右主請求と併合して請求されている本件併合請求についてもわが国の裁判権を認めるのが相当と解される(民訴法二一条、二二七条参照。)。

五  以上の次第で、わが国の裁判所は本件訴えにつき裁判権を有するものと解するのが相当であるところ、右の点は、本件訴えの訴訟要件の存否に関するものであり、民訴法一八四条にいう「中間の争い」に該当することは明らかであり、当裁判所はこれについて判断を示すのが相当と認める。

よって、主文のとおり中間判決する。

(裁判長裁判官 伊藤瑩子 裁判官 菅原崇 大久保正道)

〈以下省略〉

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